第9回 学級集団の特徴
https://gyazo.com/bb03d4d9d9776d51391f0ce1d558e287
1. 集団の形成
1-1. 誰と集団を作るか: 集団を形成する要因
集団を形成する理由
ひとつは二人以上の人間が集まることではじめて成立する活動があるからと考えられる
教育の場においても多様な形態の集団が形成され, 子ども達はそれらの集団活動から多くのことを学んでいる
自発的に集団を形成するとき, われわれはそれなりにメンバーを選択している 集団を形成する際のメンバー選択の要因
生活空間的な距離が近く, 接触の機合が多い人とは集団を形成しやすい
同じクラスで席が隣同士の相手とは仲良しグループになりやすい
基本的に近くにいるため, 集団形成後も円滑なコミュニケーションが可能になることが多い
自分が好ましいと思う人と同じグループになりたいと思うのは自然な心情
この好ましいという感情が外見上の魅力と関連していることに異論はないだろう 似た者同士は集団を形成しやすい
高校生などの仲良しグループのメンバーは, 風貌や雰囲気などよく似ていることがある
対人魅力にもつながるが、似ている人同士はお互いに魅力を感じやすいし, 衝突も少なく円滑な人間関係を保ちやすいのである 自分にとって都合がよい,あるいは一緒にいると得がある人と集団を形成しようとする
学級内の仲良しグループの構成を考えても,
同じ班のメンバーやご近所同士の子どもは学校内外で仲良く行動を共にしていることが多いし(=近接性), 校内スポーツ大会で優勝するなど特定の目標がある場合は日標達成に貢献してくれそうな人とチームを組みたい(=巧利性)と考えるだろう 小学校低学年までは、近接性が大きく作用する
子どもの遊び仲間集団の形成に関しては、席替えや班替えによって仲間集団が簡単に変わることが知られている
高学年以降は仲間集団の安定性は高くなる
しかし、集団の安定性は, 集団間の壁を厚くするために, 閉鎖的・排他的な集団が形成される可能性がある
1-2. どの集団にはいるか: 既成集団への参加要因
自発的に集団を形成するのではなく、既にある集団のうちどの集団にはいるかを選択する場合の参加要因
1. 集団の活動内容
学校での部活動
参加集団の決定には,集団の活動内容が自分のやりたいことに合致しているかどうかは第1の要因
2. 集団の活動目標
参加集団が何を目指しているかも参加集団決定の要因となる
友人づきあいをしながらテニスを楽しみたい人は, 遊びの要素も含むテニスサークル
本格的に技術を向上させ試合で勝ちたいと思う人は学校正規の体育会テニス部
3. その集団のメンバーであることの価値
このように、特定の集団のメンバーであることそのものが何らかの価値をもっている場合,それが参加の決定要因となることもある
例えば, 社会人が超高級会員制テニスクラブへの入会動機として,テニス施設や指導方針とは関係なく、超高級クラブのメンバーであることそのものがセレブの証であり, ステイタスの勲章となるから入会を希望するということがあるだろう
進路選択時の学校選びも典型的な既成集団への参加プロセス
活動の内容
どのようなカリキュラムで教育活動た行っているのか
どのような部活動が行われているのか
教育活動の目標
どのような教育理念をもち教育目標を掲げているのか
メンバーであることの価値
その学校の一員であると言えば「すごい!」と思われるからその学校を選ぶということもあるだろう
1-3. 集団の種類
集団
さまざまなものがある
われわれ個人は,通常複数の集団に所属しながら社会生活を送っている
好ましいと思う人と同じ
冬
の登良致容内 の国泉バ
個人が現実に所属している集団のこと
個人の行動や態度の拠り所となっている集団のこと
所属集団と準拠処集団は, 一般的には一致していることも多いが,ずれていることもある
そのずれが不適応につながることがある
海外の学校の行動パターンや態度を帰国後も保持している帰国子女
所属集団: 日本の学校
準拠集団: 海外の学校
この場合,当の帰国子女本人は日本の学校に居心地の悪さを感じることになるだろう
転校生も同様
帰国子女や転校生等の環境移行を経験する個人の適応プロセスとは, ある意味,もといた学校から, 現在所属する学校へ準拠集団が移行する過程であると考えることもできる
メンバーと非メンバーの境界が明確であり、客観的な組織体系をもつ集団のこと
e.g. 学校や学級
メンバーの自由意思による集団間の移動は簡単ではない
友情などのメンバー間の自発的な心理的つながりによって形成される、客観的組織体系をもたない集団
e.g. 学級内の仲良し女子グループ
非公式集団においては,メンバーと非メンバーの境界もさほど明確でも厳密でもなく,メンバーの入れ替わりも比較的柔軟に行われる
集団を構成するメンバーの年齢構成による区分
同年齢のメンバーから構成されている
学校の場では, 学年や学級など同年齢のメンバーから集団が構成されることが圧倒的に多い
異なる年齢のメンバーから構成されている
近年,異年齢集団による活動を組み入れた教育活動も意図的に行われている
きょうだい数の減少や地域コミュニティの崩壊による異年齢の子どもとの接触の少なさを補うため
年齢の異なる子ども達と接する中で,同年齢集団では見られないような, 教えたり教えられたり助けたり助けられたりという経験から子ども達が学べることは数多くあるだろう
児童期中期の特に男子にみられる, 同年齢の子ども達で形成される結束の強い集団 ギャング集団という呼称の由来
この時期の子ども集団が,放課後などに徒党を組んでイタズラをすることがよくみられる
こうしたギャング集団における行動を通した仲間関係や遊びの経験が, 子どもの発達を促すことも指摘されてきた
しかし、昨今、ギャング集団が消失しつつあることが指摘されている
地域の安全管理上の問題や習い事などによる子ども達の多忙化
2. 集団の機能
2-1. 集団規範と集団圧力
集団が形成されると, そのメンバー間に共有される一定のルールができる この集団規範には, 規範から逸脱しないようにメンバーの行動を規制する力がある
集団規範を守るようにメンバーに加えられる力のこと
集団規範は, 法律や校則のように成文化されていることもあるが, 暗黙のルールとして成文化されていなくても心理的に強い拘束力をもつことも多い 2-2. 集団の中の個人
集団になることにより、個人の行動は変化する
周囲につられていつも以上にてきぱきと仕事をこなすなど,単独作業よりも集団で作業した方が、課題遂行が促進されるという現象
集団になることで課題遂行が阻害されること
一般に、簡単な課題の場合は、集団で行う方が課題遂行は促進され、難しい場合には逆に阻害されることが知られている
集団になると個人の作業に手抜きが生じる現象
集団になることによって,個人の作業量が特定されにくくなることから責任が分散され, 生起すると考えられている
3. 学級集団
3-1. 学級集団の特徴
1. 共通の目標があり、その達成のために成員間に相互依存関係があること
2. 成員の個人的欲求が満足されていること
3. 成員間に長期にわたる相互作用があること
4. 役割と地位の分化があること
5. 共通の価値基準があること
6. 集団所属性がアイデンティティの感覚を与えること
7. われわれ意識など全体の一体性の認知があること
このような集団の特徴を踏まえて学級集団の特徴を考察してみると次のようになるだろう。 学級集団は,児童生徒の認知的・人格的発達を基本目標としており教師-生徒間, あるいは子ども同士の活発な相互作用を含む活動を展開している
こうした学級集団活動を通して,ルールの理解や協調性獲得など児童生徒の社会化が促進される しかし, 学級集団における活動は学習指導要領に代表されるように,学習されるべき内容・指導方法として規定されていることが多いことも特徴
学級集団には, 友人関係を求める児童生徒の親和欲求を満足させ,安心感を与える機能がある 学級集団は基本的にはそのメンバーが編制当初から変わらず、 通常1年ないし2年間継続する境界の明瞭な集団
学級集団は、年齢・居住地などの条件により構成された学校集団内において, 児童生徒の意思とはかかわりなく強制的に編成された公式集団 学級集団内においては, 担任教師がリーダーとして学級運営にあたる
児童生徒内のリーダーや子ども集団内の社会的地位分化が自然発生的に生まれることもあるが,委員や係など人為的な役割分化がなされることもある
学級集団内では,学校全体の規則である校則を前提として「クラスのきまり・目標」が掲げられることも多く, してはならないこと・すべきことなどの暗黙の行動規範が共有されている
こうした暗黙のルールや目標の共有を通して
学級集団メンバーには, 「1年3組の山田です」との自己紹介
一体感も共有
「うちのクラス」
以上より, 学級集団は
その編成や集団目標 活動内容において. 成員メンバーの意思によらない制度的規定を強く受けている公式集団でありながらも,
同時に, 成員メンバー相互の心理的交流や親密な関係性がその活動を支えている点では, 非公式集団の要素も多分にもち合わせた集団であるといえる
3-2. 学級集団構造化のプロセス
入学当初やクラス替えの直後は,学級はばらばらの個人の寄せ集めでまとまりはない
しかし, 日を追うに従い,学級としてまとまってくることが多い
1. さぐり
新しい学級になったばかりの時期であり, 子ども達が 期往と不安、緊張の中で他の子ども達を観察し,どのような行動や態度をとればいいか,自分が何を期待されているのかを考えている段階
2. 同一化
学級が落ち着きはじめると, まず二者関係が成立し,徐々に仲間関係が拡大していく
個人差はあるが, 子ども達が, 学級への所属意識をもちはじめ,相互がうちとけあい, 集団内での安定感が増してくる段階
3. 集団目標の出現
共通の目標が明確になり, 学級への所属感が強まる段階
相互の結びつきが意識されはじめ, 個人の私的目標はコントロールされる。
4. 集団規範の形成
一人一人の行動を規制するさまざまな規範が生じる段階
集団規範の成立によってわれわれ意識が育ってくる
5. 内集団一外集団的態度の形成
われわれ意識が高まり, 学級集団としてまとまってくる段階
同時に,自分の仲間とそれ以外の人とを区別する態度が発生し,他の学級集団に対して激しい排他的傾向が示されることもある
6. 集団雰囲気の発生
その学級独特の雰囲気ができはじめる段階
集団メンバーに共通の感情表現形式や反応傾向がみられるようになる
どのような学級雰囲気が生成されるかには, 担任教師の態度や人格が大きく影響するといわれている
7. 役割と地位の分化
子ども達の集団内地位が確定し,役割分化が起こり,集団が組織的になる段階
地位の階層が形成されはじめ, 人間関係の構造化が起こる
3-3. 学級集団構造の理解
具体的には,
グループ学習や席替えなどで一緒のグループになりたい子(選択)と一緒になりたくない子(排斥)を記入してもらい, 学級内の非公式集団の構造や, 人気児(多くの子どもから選択される子ども)・排斥児(多くの子どもから排斥される子ども)・孤立児(誰も選択しようとしない子ども)・周辺児(相互選択がない子ども)の存在を明らかにすることができる。 https://gyazo.com/e39987a31c193717a1ebc6ba23ca5d55
中学1年生女子を対象にして繰り返しソシオメトリック・テストを行った結果から,1学期間における人間関係の変化をとらえたソシオグラ(大橋・鹿内・林他, 1981) 時を経るにつれ,仲間関係がまとまっていくプロセス
ソシオメトリックテストは,それまで特に意識されていなかった
一緒になりたくないクラスメートの存在を子どもに意識化させてしまう危険性を伴うという倫理上の問題があることから, 昨今では一緒になりたい子ども(選択)だけを尋ねるという形式で施行される
「クラスで最も責任感のある子は誰でしょう」 といった行動に関する質問に答えてもらうことで, 子どものクラス内での評価を理解する方法
ソシオメトリック・テスト以外にも集団内の人間関係を把握する方法
4. 学級集団に関連する今日的課題
4-1. いじめ
いじめの定義は時代によって変遷している
1対1の対立ではなく集団対個の関係性の問題といえる
昨今のいじめの特徴
特定の子が長期間いじめられるのではなく, 短期間にいじめのターゲットが変わることが挙げられている
子ども達はいつ自分が集団からターゲットにされるか分からないという不安の中で, 学級集団へ同調的にふるまわざるを得ないともいわれている
4-2. スクールカースト
いじめの背景には学級内の集団の地位が関係している
学級集団内に形成される人間関係の固定化された序列構造
学級内は , 1軍·2軍……やAチーム·Bチーム……等のグループに厳然と分かれており、グループ間の交流やメンバーの移動は基本的にはない
上位グループのメンバーの特徴
自己主張と同調がうまい華やかな上位グループが学級集団全体を仕切り、下位グループに所属する子どもはいじめのターゲットになりやすいとされている